---第33号特集記事---


―セカンドオピニオン

患者と医療者の新たな信頼関係を求めて

2004年10月 シンポジウム講演録
 (前半)


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講  演  者
埴岡健一さん 医療ジャーナリスト
南雲吉則さん キャンサーネットジャパン代表・医師
山下浩介さん 神奈川県立がんセンター放射線科医師
かながわ・がんQOL研究会
石井 猛さん 千葉県がんセンター整形外科医師
上野 創さん 朝日新聞記者 がん体験者



南雲 吉則 さん キャンサーネットジャパン代表 セカンドオピニオン発起人 医師)
セカンドオピニオンはよりよい医療の切り札  

私は乳がんを専門としている外科医です。そしてキャンサーネットジャパンというがんの情報提供のボランティアを13年やっています。今日は、がんのセカンドオピニオンについて総論的な話をさせていただきます。

そもそもキャンサーネットジャパンが1991年にできたのは、「セカンドオピニオンシリーズ」を出版したことが始まりです。これはアメリカの国立衛生研究所が出していた乳がんの患者向けパンフレットを、わかりやすく日本語に翻訳して無料で配布するボランティアだったのですが、当時は「セカンドオピニオン」という言葉すら、日本ではあまり使われていなくて、「一体何?」と医師から言われたくらいの時代です。96年には「セカンドオピニオンコール」と言いまして、電話・FAX・メールでセカンドオピニオンの相談窓口を作りました。現在は「セカンドオピニオンメール」という形で、メールで年間2000件くらいの相談を受けております。それから99年には「セカンドオピニオン外来」を作りました。現在では「セカンドオピニオン外来」は珍しくなく、全国各地にありますが、その当時は画期的なことでした。そして2001年に後ほど紹介する「セカンドオピニオン宣言」を出しまして、昨年セカンドオピニオン・ネットワークに参加したという経緯です。


セカンドオピニオンはドクターズショッピングではない 

「セカンドオピニオン」は「第2の医師の意見」と訳されることがありますが、一体どういうことをするのでしょう。そしてドクターズショッピングとの違いは何でしょう。ドクターズショッピングとは、例えば主治医の意見が信じられない、または気に入らないときに、主治医のところを飛び出して別の医師の所へ行く。そこでもまた気に入らなければ、また別のところへと、ウィンドショッピングのように転々としてしまうことです。そうしますと、診療情報は常に病院に置きっ放しになって、次の病院でまた一から検査をしなくちゃならない。それから、主治医とセカンドオピニオン医が協力しあって、集学的な治療をするということが不可能になってしまいます。

キャンサーネットジャパンではセカンドオピニオンをこう説明してます。野球に例えると患者さんはピッチャーです。チームの中心ですね。「がん」は手ごわい敵=バッターです。どんなにピッチャーが頑張っても、一人だけでは守りきれません。そこにファースト、セカンド、サードがいて、それぞれのファースト医、セカンド医、サード医がけんかしたり、お互いをけなし合ったりしないで、絶妙なチームプレーをしてくれた時に、はじめていい医療が実現するのです。ですからセカンドオピニオンというのは「医療施設の枠組みを越えた医療連携」のことを指すのだと説明しています。患者さんから見たら、「複数の主治医を持つこと」と言ってもいいのではないでしょうか。

主治医と治療法を自分で

ところが主治医に「セカンドオピニオンを受けたい」と言うと、次のような反応を示すことがあります。「僕の言うことが信じられないの?」とか「そんなことをしていると、手遅れになっちゃうよ」とか「よその病院に行っても、受け入れてくれないかも知れないよ」とか、ちょっと嫌がらせに近いようなことを言われたという話もよく聞きます。何で医師が協力しないのでしょう。医師には医師の言い分があって、「自分が一生懸命治そうと思っているのに、よその病院へ行くなんて言われると、主治医と患者との信頼関係が壊される」とか、「自分の治療方針や診断を他の医師に否定されることがある」とか、「患者をよその病院に取られてしまって生活が出来ない」。さらに、セカンドオピニオンを受けに来た患者さんは既に診断がついているわけですから、新たに検査をするわけじゃないので「採算が合わない」。また、「それを受け入れるだけの時間がない」ということですね。

しかし、世の中というのは、誰かが損をすると誰かが得をするという構造になっていますから、医師にとって損だということは、患者さんにとって得だということです。すなわち、診断・治療に関して様々な医師の意見を聞くことができる。見落としや誤診を防止できる。それから、自分の治療法と主治医を自分で選ぶことができる。これは人間にとって一番大切な自己決定権ですよね。そして費用もあまりかからない。 さらに、がんの場合のセカンドオピニオンは大切です。例えば、食道がんでは放射線と抗がん剤を使っても手術と同じ根治性があると言われているにも関わらず、外科医は手術を勧めます。しかし、手術で亡くなる方は10%いるんです。ですから、手術ではない方法を選ぶことによって、合併症や事故を減らすことができるかも知れない。そして、その人のQOL(人生の質)が向上するかも知れない。つまりがんのセカンドオピニオンの重要な利点は、治療法と主治医を自分で選ぶことによって、生存率とQOLが向上し、再発率と事故や合併症を減少させることもできるかも知れないということなのです。


セカンドオピニオン3原則を定着させよう

セカンドオピニオンが普及しない理由をまとめてみました。一つには「セカンドオピニオンを知らなかった、または主治医から知らされなかった」。二つ目には、「セカンドオピニオンを受けたいと主治医に言えなかった、または言ったが協力してもらえなかった」。三つ目には、「どこでセカンドオピニオンが受けられるのか分からなかった、または受け入れてもらえなかった」ということです。こうした現状を打開するために、キャンサーネットジャパンは91年に「セカンドオピニオン宣言」をしました。これは現在セカンドオピニオンネットワークに受け継がれて、@セカンドオピニオンを告知・推奨する、A情報開示を含めて全面的に協力する、B希望する方がいらした時には、全面的にこれを受け入れる、という「セカンドオピニオン3原則」となりました。この3原則が実現しなければ、やはりセカンドオピニオンは世の中になかなか定着しないんです。

最後ですが,セカンドオピニオンというのは、よりよい医療の切り札なのです。でも、切り札というのは、切り時が大切です。初回治療の前に受けなければ生存率は向上しません。合併症または何か事故が生じてしまってからセカンドオピニオンを受けても、そこから改善されることは非常に少ないのです。がんの告知と同時に、主治医がセカンドオピニオンを推奨して協力してくれないと、医療は変らないということです。簡単ですが、終わりにします。
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