---第33号特集記事---


―セカンドオピニオン

患者と医療者の新たな信頼関係を求めて

2004年10月 シンポジウム講演録


( 4 / 5 )


講  演  者
埴岡健一さん 医療ジャーナリスト
南雲吉則さん キャンサーネットジャパン代表・医師
山下浩介さ 神奈川県立がんセンター放射線科医師
かながわ・がんQOL研究会
石井 猛さん 千葉県がんセンター整形外科医師
上野 創さん 朝日新聞記者 がん体験者





石井 猛さん 千葉県がんセンター整形外科医師)
石井です。セカンドオピニオンについて、私が勉強した限りで考えてみたいと思います。

最初に必ず主治医が治療方針を説明するわけですが、それをファーストオピニオンといいます。ファーストオピニオンというのは医療の情報ですから、最も重要であるのが当たり前です。ところが、病院によってがんに対する治療法、得意な分野が違う場合があるという現状がありまして、その時に他の医師の意見を聞くのが、セカンドオピニオンになるというふうに私は理解しています。

ファーストオピニオンが決定的な決め手に

ファーストオピニオンと医療情報の重要性


医療の情報について考えてみると、ここで乳腺専門の先生や放射線科の先生の前でこんな話をするのもどうかなと思うんですが、乳房温存療法といいまして、これは某大学のHPからとったんですけど、全乳房切除術と部分切除術と比べても生存率は同等である。同等なので、T期またはU期の乳がんに対しては乳房温存療法が推奨されている、と書いてあります。  

放射線の副作用はどうかという項目もありますが、皮膚炎とか色素沈着などの問題があるが、「問題となる副作用は起こらない」と書いてあるんです。これで終わっているんですが、放射線の発がん率はどうか?私も放射線領域の研究をしていたので疑問に思ったところなんですけど、他のいろんな文献を調べますと、「残存乳房への放射線を照射しても子宮がんの発がん率は問題にならない」と書いてあるんですね。じゃあ問題にならないのかというと、照射後肉腫というのがありまして(放射線をかけた後に放射線の副作用でがんの一種の肉腫ができる)、その発生率は0.1%、1,000人に一人といわれていますから、それくらいは無視していいだろうというのが医師の意見なんです。ただし、自然的な肉腫の発生頻度というのは10万人に一人ですから、10万分の1が1,000分の1に増えるというのが事実です。

どうしてこういうことを言うかと言いますと、放射線照射後肉腫というのは、実は我々が治療をするわけなんですね。私が千葉県立がんセンターにきて11年になりますが、今までに乳がんの手術と放射線照射後に胸骨の骨肉腫の患者が1例、子宮がんの放射線照射後の骨盤の骨肉腫の患者が4例ありました。いずれも放射線をかけてから10年以上、長い人は30年くらい経ってから出るわけですね。

残念ながら、放射線照射後肉腫の生命予後というのは不良でして、当センターでは全例死亡しています。その時に私が患者さんたちに聞くと、「放射線をかけてがんが出来るというのは聞いていない」「がんを治すために放射線をかけたのに、どうしてがんが出来てしまうのか?」と逆に聞かれることが多いくらいです。「放射線による発がんは問題にならない」というのは医師の考えであって、こういう患者さんを診る経験をした一整形外科医としては、こういうことも一応患者さんには話すべきであると、いつも思うことです。


事実を正確に伝える

本題に戻りますが、うちのガンセンターで扱うがんは、まず「転移性の骨腫瘍」といいまして、がんの骨転移です。すなわち肺がん・腎臓がんなど内臓の癌からから骨に転移するものです。

もう一つは原発性の骨軟部悪性腫瘍で、これは原発性悪性骨腫瘍(骨肉腫、ユーリング肉腫、子供のがん)と、あとは原発性悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)で、これは脂肪・筋肉・神経のがんです。その中で骨肉腫を例にとって、どういうふうに話しているかをお話したいと思います。

ファーストオピニオンということになるんですが、14歳の脛骨骨肉腫の子がいますと、まずこういう複写になっている紙に書きます。必ず1枚は医師が保管して、1枚を患者さんに渡すようにしています。骨肉腫はどうやって説明するかというと、「これは大昔の話ですが、治療しないとまず肺転移で死んでしまう。切断しても半年か一年すると肺転移が出てほとんどが死んでしまう」「どうして足を切断しても死んでしまうのかというと、病院に来た時点でがんが全身に広がっているからです」と説明します。

しかし今は、「全身に広がっているがんも、抗がん剤を使うようになって、肺転移を抑えて治るようになりました。今うちのガンセンターでは5年生存率が80%、10年で73%なので、約8割方治ります」という話をします(ただし、抗がん剤は1年間続ける必要がある)。

さらに骨肉腫というのは抗がん剤だけでは治らなくて、足の方は手術もしなくちゃいけません。手術法はいろいろあるんですが、切断(足を切ってしまう)、それから膝回転形成術というちょっと難しいやり方なんですが、足を短くする方法があります。あと人工関節、関節固定術、それぞれ利点・欠点があるわけです。根治性とか機能とか外観とか、ただ全部足を残せばいいというものではありません。

これも比較して並べるとよくわかるんですが、切断・回転形成術・人工関節の三つを並べて示しますと、局所根治性(そこのがんがもう一回再発するかどうかということ)は、当然「切断」が一番いいわけです。「回転形成術」も切断に近いので根治性は高い。「人工関節」というのはその部分だけを取るので、他の二つと比べると根治性は低い。機能はどうかというと、人工関節の人はスポーツをやっている人もいますが、壊れてしまうので、なるべくしないように指導します。でも見た目はそのままでふつうの人のようです。耐久性は学会などの発表を見ますと、人工関節の寿命は平均約10年といわれています。したがって10年経つとまた手術をしなければならないことが多い。

そのほかにも感染という問題もありまして、ずっと一生このままですむというわけじゃない。「大腿部切断」を考えると、パラリンピックでも切断の人が活躍していますけど、義足がよくなりまして機能がすごくよくなったんですね。ただし、足がなくなるわけですから外観は悪いといえば悪い。耐久性に関しては義足が壊れるだけですので、よいといえます。回転形成術では同じような形でむしろ機能に関しては足が長く残りますので、大腿切断よりもいいですね。ただし外観は足がひっくり返りますので、非常に悪いと言えば悪い。

何れの手術法でも一般的には身体障害者(大体4級)となります。ここで一番問題になるのは、骨肉腫というのは局所再発すると治癒率は5%、これは欧米でもそうですし、日本でまとめてみても同じです。先ほどいいましたように、ハンディキャップを背負って、将来に渡って社会生活をしていかなくてはならないので、基本的にはいくら小さな子であっても、6歳の子にもちゃんと「がんである」とお話をします。その上で、手術がどういうものがいいのか、基本的には患者本人とご家族に選択してもらう。「自分で選んだ」ということが、今後の生活で前向きに生きていくときの糧になっていく。一番悪いのは、医師に言われて切断された、と患者自身が思うことです。

ここまでが、骨肉腫に対して私が話しているファーストオピニオンの内容です。

抗がん剤治療を拒否し回り回ってきた例

セカンドオピニオンについて今回調べたんですが、件数は多くありません。5年間で20件くらいでした。多分稀な疾患だからでしょう。ほとんどが原発性骨軟部腫瘍、骨肉腫です。転移性の骨腫瘍は、数は多いんですが、よく考えると元のがんがあるわけですね。例えば胃がんの転移とか肺がんの転移ということなので、セカンドオピニオンをとる時はその科の、すなわち胃がんや肺癌の専門家のところに行くというのが当たり前なので、おそらくこういうふうに少ないのだと思います。この中からいろんな問題点を考えさせられた症例をご紹介しましょう。

この人は18歳の女性で、右の大腿骨骨肉腫。東京のG病院で骨肉腫の診断を受けて、当然抗がん剤治療をやるわけですね。2カ月間やり、抗がん剤の効果がありました。非常によく効いている、と。だけど、家族の希望で病院を移って塞栓療法を受けたんです。一時、効果はあったんですが、再燃して、今度は放医研というところに重粒子線治療という特殊ながん治療の機械があるんですが、そちらがいいだろうということで、放医研の病院に移った。放医研の先生から、がん全体の治療に関してのセカンドオピニオンをとるように勧められて当センターを紹介された。うちの病院に来た時には、大腿骨以外の病気は、鼠径部のリンパ節転移と両側の肺転移がありました。当然のことながら、治癒を目指すなら全身化学療法が必要だということで、自宅近くの神奈川県立がんセンターで治療した方がいいんじゃないか、ということでまた紹介しました。

どうして家族の希望で転院したのか、と言うのが一番の疑問で、これは推測なんですが、まず本人が化学療法を嫌がったのではないか。嫌がる理由はいろいろあるんですが、ほとんどの場合は副作用ですね。子供の場合、昔はがんセンターでも治療が嫌で途中でやめた方がいたんですが、子供とか10代の方で最も苦痛なのは頻回の注射です。点滴とか採血が嫌なんですね。注射を見るだけでも怖くなっちゃう。今はヒックマンカテーテルとか、グローションポートというのがあって、かなり使われています。子ども病院では一般的なんですが、うちの病院では
12年前からはじめています。これは胸のところから管を入れ、採血もできるし、点滴もできる。これで苦痛は激減しました。その当時は少なくともその病院では導入していなかったのではないか。

それから家族が「化学療法をしなくても塞栓療法がたいへんよく効く」という情報を得てきたんですね。しかも80%以上効くと。80%以上効くなら抗癌剤に比べたらこちらの方がいいに決まっているだろうと。ただし、80%というのは奏功率といいまして、その場のがんが小さくなったということであって、治癒率ではないんです。そこの場所の癌が小さくなってもがんは治らないという病気はいっぱいあるんです。重粒子線というのもそうなんですが、局所効果にすぎない。おそらくご家族の方はをそれを誤解されたと私は推測します。よく効くというのと、治癒率は違う。これは抗がん剤治療を受ける場合の考え方の基本ですね。抗がん剤治療を受ける場合、どれくらい効くかというのは、本来は治癒率で考えないといけない。この患者さんには全身病である骨肉腫というのは、治癒には全身化学療法が最も大事なんだというお話を外来で長々としました。

切断の良い面を具体的に知ってもらう 

次の患者さんは男性なんですが、東京の医大で96年に骨肉腫と診断された。

腫瘍が大きいので、医師は「切断した方がいいだろう」、本人は「絶対に嫌だ」ということで、他の病院で「動注化学療法」を受けて、またその病院に戻ってきて人工関節の手術を受けました。化学療法もやっていたんですが、8月に肺転移がおきて転移を切除、また10月に反対側の肺に転移が起きて転移を切除した。そして11月には局所再発が起きたんです。

この経過をみますとこれぐらいの早さで肺転移が起きるというのは局所再発しているというふうに我々は考えるんですが、その通りに局所再発してしまった。その後、大腿切断術を受けたんですが、12月にまた肺転移が再発して、もうこれ以上は治療はできないということで、千葉の地元の病院に来た。その地元の病院から、まだ治療が出来るんじゃないかということで、うちの病院に紹介されてきました。
入院していろいろ治療をして頑張ったんですが、結果的には3年間くらいで亡くなられました。ここで一番問題なのは、一つはうちの病院では化学療法の効果があったんですね。ということは、局所再発しなければ、多分治癒したと考えられる。

「患者が切断を拒否するので、仕方なく切除とか化学療法を行った」、というのは、よく学会でも聞くんです。「私は無理だと思ったんですが、こういう手術をしました。結果的には再発しちゃったんですけど」という話をよく聞きます。そういう場合、「骨肉腫では実際のところ再発したら、きわめて予後不良だ」ということを本当に話しているのかどうか。

また、切断の良い点というのはいっぱいあるんですね。先ほど話したように耐久性がいい。それから将来的にもずっと手術しなくてすむ。うちの病院では、切断を受けるかどうかということに関しては、実際に切断した患者さんがいますので、来ていただき面会してもらって、その人の話を聞いてもらうんです。

治療法が無くなってから相談に来るのが実情  

最後ですが、HP(Steve Dunn氏のCancer GuideのHP)でこういうことが書いてありました。『主治医から「もう治りません」「やる方法はありません」と言われた場合は失うものは何もありませんから、セカンドオピニオンを是非受けなさい』。先ほど言いましたうちのがんセンターに来た症例で見ますと、ほどんどがそれですね。骨肉腫とかユーリング肉腫とかいろんな治療で再発を繰り返して、「何かありませんか」ということで来る。結局は「治療が出来ない」ということの再確認がほとんどです。

なお、腫瘍の状態とか、治療上の境界線である場合、手術をした方がいいかとか、抗がん剤をやった方がいいとか、放射線の方がいいとか、「境界線だよ」と医師から言われた場合もセカンドオピニオンを求めるように、と書いてあるんですが、このような患者さんは2例だけでした。

先ほど話ましたように、治療の途中でセカンドオピニオンを求めるというのは、主治医にかなり言いにくいのではないかと思います。あなたが地方に住んでいる場合や、あなたの腫瘍は稀なものだと言われた場合、地方でも専門の良い先生がいる場合もあるんですが、一般的には専門家は少ない。骨軟部腫瘍の場合は非常に稀なんですね。大学病院でも、大学病院だからいいというものではなくて、1年に一人だとか、2年ぶりに来たという場合でも、来るとそのまま治療をしているという所もあるというのが現状です。以上です。


-BACK- −NEXT−


CLOSE