---第35号特集記事---


原発性肺がんと転移性肺がん
2004年6月 講演録 (2/4)


 国立がんセンター東病院呼吸器外科医
吉田 純司氏









◆肺がんの検査
検査にはいろいろあって(表2)、まず、見つけるためには胸部のX線写真で探そうとしてきましたが、これはなかなか難しい。難しいのですが、だからといって検診に意味がないとは言えません。胸部X線がきっかけで治る肺癌が見つかるケースは少なからずあるのですから。

最近の趨勢としてはCTの方がいいのでは、となってきています。CTでは非常に早期の肺癌がけっこう見つかります。こういうことは日本が世界に先駆けて始めていることです。CTの問題点は、がんでない病気も多く見つけてしまうので、見つけたからには何か検査や治療をしなくては、ということで負担がかかるという点です。でも、確かに早いものが見つかります。

腫瘍マーカーというのは、がんが作る蛋白を目印にして血液を調べる手軽な検査ではありますが、「高くなることがある」という検査なので、これで発見できるかというと難しいです。「高いので調べてみたら、確かにあった」ということは少なからずありますが、その時点ではある程度進行した段階になっていることが往々にしてあります。もうひとつ問題なのは、がんでなくても高くなることがしばしばある。タバコを吸っていますと、肺がんでわりと代表的なCEAというマーカーが妙に高かったりします。そういう意味でもタバコはやめたほうがいいと思います。そんなわけで、「血液を検査してがんの早期発見」などという宣伝文句は詐欺に近いというのが私の考えです。

肺がんと確定するには細胞を見て決めますのでX線やCTの画像だけでは決定できません。痰の細胞を見る、あるいは気管支鏡(胃カメラの非常に細いようなもので気管支の中に入れるもの)や針生検(針を刺して組織をとる)、胸腔鏡や縦隔鏡などで組織の一部を取ってきて細胞を調べます。
最終的には胸を開いて取ってしまうときもありますが、いずれにしても腫瘍の一部なりとも取ってきて顕微鏡で診断するのが確定診断といえるものです。ですから、画像だけ見て医者は「がんです」とは言いません。

治療の方針を決めるために、進行度を決定する検査がいろいろありますが、病気の段階、進み具合を見るためいろんな検査をいたします。CTの検診などで、早い段階で見つかった方は、検査してもほとんど何も見つからないので、がんセンターの場合は脳の検査、骨の検査、お腹の検査は一番早い段階の方、TAの方についてはやっていません。

東病院が開院した92年当時からしばらくは、こういう検査も全部やっていたんですが、早い段階で何も症状のない人から見つかる率は100人に1人くらいというデータが出てきましたので、「99人無駄になる検査はやらない」というのが我々の考えです。どのくらい進んでいそうかということによってどこまで検査をやるかは変ってきますので、ここにあるような検査を全部やらないからといって「おかしい」ということではありません。
◆病期=病気の段階
病期は三つの因子で決定します。これは肺がんに限らず、ほとんどのがんがこういう因子で分類しています。

しこり自体の状態、これはtumorのTを取ってT因子と言います。リンパ節への広がり、リンパ節はlymph nodeといいますので、nodeのNを取ってN因子と言います。それから他の臓器への転移、これは、転移をmetastasisといいますので、Mを取ってM因子。このTNMというのを基本的には組み合わせて病気の段階を決めるというのが国際的に共通している評価の仕方です。

がんはどうやらあるようだがどこにあるかわからない、という潜伏がんから始まって気道粘膜層内に限局している、これを0期とします。こういうのは現実には非常に少なくて、TAという病期のものから肺がんとして相手にされます。

TAというのは、大きさが3センチ以下で、3センチまで含みます。肺の中に留まっていてリンパ節にも転移はありません。他の臓器にも転移はないという段階を言います。

TBというのは、大きさだけがちょっと大きく、3センチは超えている場合。もうひとつは3センチよりは小さいが、胸膜という肺の表面を覆っている薄い膜を食い破って表面に顔を出している、こういうのをTの2と言いまして、T2であと、N0、M0というものをTBと言います。

こういう決め方は、今はUICCと略称される国際癌学会で管理してますが、会議でデータを持ち寄って、こういうふうに分けると治療の成績がはっきりと分かれてくる、という合意をして国際的な標準として使うわけです。さらにUA、VA、VB、Wというふうに7段階に分かれています。これをTNM分類と呼びます。。

◆治療法
ではそれをどう治療するかというと、いろんなやり方がありまして、私は基本的に手術に携わっています。放射線を使うときもある。抗がん剤を使う化学療法、化学療法と放射線を組み合わせる化学放射線療法もあります。手術の前、あるいは後に化学放射線療法を組み合わせようという方向が検討されていますが、確立してない部分が相当あります。

光線力学療法というのは、がんに集ってレーザーを浴びせられるとそこの細胞を殺してしまうという物質がありまして、それを注射して使います。これはレーザーを当てられないとできませんので、内視鏡で見えるようなところ、肺門型でやります。肺野型の方は基本的にレーザー治療はできません。今、肺門型自体が減ってきていますから、うちも機械はありますが、ここ数年やってないと思います。

高周波照射というのは、細い針を刺してその先で、ラジオ波といってAMラジオの領域の高周波、あるいは電子レンジのように非常に高い周波数の電気を流して針の先の周りを焼いてしまう治療です。

凍結は、これも針先で凍らせるのですが、この二つはまだまだ実験的なところがありまして、よくわかっていません。

今、確立された治療法としてあるのは、手術、放射線、化学、化学放射線療法。それから、レーザーが肺門型に対しては確立されているという段階で、だいたいこのへんが押さえておくべき治療法です。

◆切除が基本
非小細胞肺癌からお話します。この治療はまず切除から始まりました。1933年、イギリスのグラハムが始めました。この頃は抗がん剤はありませんでしたし、放射線も治療に使えるような強力なものはなかったので、まずは取るということから始まったわけですね。医者というのは、ある意味では非常に単純な考え方をします。「それが将来命に関わってくるのなら、取ってしまえばいいだろう」と考えたわけです。単純肺全摘、これはがんにかかった肺、右なら右全部を取ってしまうという手術です。まだ抗生剤はなかったこの頃、よくやったものだと思いますが、幸いこの手術を受けた患者さんは治ってしまいました。ですから、それがどんどん世界に広がっていったんですね。

ただ、リンパの流れに沿ってリンパ節へ広がりやすいことが分かってきて、それも取ったらいいだろうということになり、50年代まではこの方法がずっと席捲していました。これはケイハンというニューヨークの医師が提唱した方法ですが、同じケイハン先生が、“肺葉切除”という方法を始めました。肺というのは、右が3つ、左が2つの肺葉に分かれています。がんができた肺葉に限って取ってしまう。残す肺を増やして、肺の働きをできるだけ残すという手術を60年に確立しました。それ以来、肺葉とリンパ節を取る、というやり方が肺がんの標準的な手術のやり方となっています。

この方法が標準とされている理由は、他の方法の成績がはるかに悪いからです。33年から始まって70年、この間に抗がん剤が出てきました。放射線もコバルト照射に始まってさまざまな方法が採用されるようになりましたが、それらでもなかなか治らない。それならばこの方法に固執するしかないんですね。それで、取る範囲を狭め、あるいはリンパ節郭清が加わり、条件が悪い患者でやってみたら大丈夫そうだからそっちに変る。こういうやり方をヒストリカルコントロールと言います。

今問題になっているのは、肺葉切除をもっと縮小したらどうかという説で、これは単純に縮小しただけではだめなようだと、いろいろ試行錯誤されている段階です。リンパ節郭清が問題になっていますが、これはやってもやらなくても成績があまり変わらないということはだいたいわかっています。ただ、N因子というリンパ節にどのぐらい広がっているかが病期の評価に決定的に重要ですし、取って顕微鏡で調べないとわからない世界なので、取ることは明らかに必要なことです。乳がんで脇の下のリンパ節を取る場合とは違い、肺のリンパ節郭清はあまり悪影響をもたらしませんので、郭清をできるだけ省略するという路線について、現実的には外科医はあまり熱心ではありません。
◆病期による標準治療
まず0期ですね。粘膜に限られた非常に狭いものですが、切除もありますし、光線力学療法(photodynamic therapy=PDT)なども行われています。

TからU期、これはA・Bを含みますが、これは取ってしまいます。UBというのにT3といって、周りの組織に浸潤している場合はそれもいっしょに取る。
手術後に化学療法を追加する方法がTB、UA、UBに対して出ていますが、これは10人やったら1人くらいは役に立つかなという治療ですので、私はそういう説明をしていまして、そうしますと、2・3割の患者さんしかやりたいとおっしゃらない。

切除することが難しいという方では、根治的放射線治療=治すことを目的に徹底して照射するという治療が行われます。放射線の照射部位をうんと絞る、粒子線というのも同じですが、そういうやり方が最近だいぶ出てきて、かなりいい成績が期待できそうだといわれていますが、まだ確立されていません。今、試験中とお考えください。今は手術が難しいような条件の悪い人に絞って行われていますが、この成績が非常に良ければあるいは切除に取って代わり、こっちが主流になる可能性は、一応あります。

VA期の場合、これは基本的にT・U期と同じでやってきたんですが、欧米では術前に化学療法、場合によっては放射線も合わせてやると成績がいいようだというデータが出てきましたら、90年代後半からは、いっせいに術前化学放射線療法になっています。欧米ではこれがいいというデータが出ると、いっせいにその方向に行きますね。情報開示とかいろいろ影響するのかもしれませんが。ですから今VA期について、いきなり手術するのはたぶんアジア圏でしかないと思います。

日本ではVA期での術前化学放射線療法については、実際試してみたらあまり役に立ってない、というデータしか出ていないものですから、私の所ではいきなり手術をやることがけっこう多いです。ただ、欧米の文献としては術前化学放射線療法でという方向に雪崩を打っていますので、患者さんが希望すればそうする時もありますが、かなりまだ混沌とした状況にあります。

W期になりますと、もう放射線を当てても仕方がないということもあり、抗がん剤の治療が主です。抗がん剤をイヤだと言えば、ベストサポーティブケア(BSC)、緩和ケアのように症状だけ和らげるような治療という方向になります。

◆治療成績
治療成績はだいたいこういう数字になります。0期は、まず治ります。TA期、今8割くらいですが、うちのデータとしては85%くらいです。放射線で焼く方法は従来3割程度の数字しか出ていません。だからこそ切除が主だったわけですが、今、陽子線や定位放射線療法が出てきて、それはもしかすると切除と同じくらいの成績になるかもしれないと言われていますが、まだ試験中です。

ちょっと大きくなったUBでは1〜2割落ちます。うちは72%です。放射線の場合、3割程度。UAになると5〜6割。うちは48%です。

最近、いろんな雑誌が治療成績を表にして出していますが、小数点以下まで出して並べて意味があるのかというのが医者の側の意見ですね。治療成績の数字の意味合いがまったくわかってないと言わざるをえません。5%程度は簡単なことで違ってきます。そもそも“5年生存率”というのは、がんだけではなくて、どんな原因であれ死んだ人は“死亡”とカウントしますので、交通事故で死んだ人が混じっていても5年生存率は落ちます。そういう数字を相手に5%変わったらどうだというのは愚かなことです。医者のコメントとして、5%良い成績を出している病院があればそっちを選ぶ、なんていう記事を見たことがありますが、そういう基調で書かれたものはあまり信用しないほうがいいと思います。

病期がだんだん進んでいきますと、確かに数字は悪くなります。UBではあまり変わりません。我々はUAと同じです。VAになると2割くらいとなり、うちでは32%ですけど、我々自身はこれをいい数字だと思っているわけではなくて、そんなに違っていないと思っています。実際のところは進行の度合いによって化学放射線療法に回る人もいますから、このへんの値というのは簡単に変わります。

VB期になると、手術は基本的に行われません。化学放射線療法で1割未満が普通ですね。W期になりますと、5年生きる方はほとんどいらっしゃらない。そういう状況です。
◆小細胞肺癌について
小細胞肺癌のほうにいきますと、戦前および戦後まもなくは、切っても治らないということが問題になっていました。英国にメディカルリサーチカウンシルという組織がありまして、ここは時々こういう大きな検討をして非常にインパクトのあるレポートを出しますが、69年に小細胞肺癌は放射線療法をしたほうが外科切除よりもずっといいというデータを出しました。ここで一気に「小細胞肺癌は外科的な手術をしてはいかん」という話になりました。69年ぐらいから非常にいい薬が出てきまして、放射線療法から化学放射線療法に移ってきていまして、今もこれがスタンダードです。

ただ、最近ではCTなどで非常に早い段階の小細胞肺癌、T期のものが見つかるようになりました。通常小細胞肺癌は非常に早い段階から転移しまして、見つかったときはリンパ節に広がっていることがほとんどなんですが、癌のようだしT期だからと切除して、病理検査をすると小細胞肺癌だったとわかることが少なからずあります。それでも、基本的には非常に転移しやすい病気ですから、抗がん剤を追加するというのがスタンダードな行きかたです。

U期以上になり、リンパ節などに広がり始めると、もう手術はしませんよというのが普通の考え方です。ただ、放射線療法は当てる範囲をかなり狭くしないと人間は耐えられないので、胸の外にまでも癌が広がっている場合は化学療法になります。

化学療法は、脳には効きにくいんですね。脳血液関門といって、血液から脳にいろんな物質が入ってくるのを妨げる関所がありますので、抗がん剤が届きにくい。化学療法が非常に効いたような方には、脳に残っているかもしれない癌を叩くために、予防の治療として全部の脳に放射線を当てる予防的全脳照射という治療をし
ます。

治療成績はどうかというと、5年生存率で見ていきますと、T期で6〜7割、限局型で2〜3割、進展型でほぼゼロ。3年位が限度です。抗がん剤も放射線も非常によく効いて限局型で2〜3年くらいはかなりうまくいくんですが、それ以上になると急に出てきてしまう。進展型になると
3年に行くのもちょっと厳しいかなということが多くて、5年でこのくらいの数字になってしまうというなかなか難しい現状です。
◆経過観察
経過観察をどのようするかということは重要なことですが、実はよくわかっていません。無作為比較試験というものをやらないと最終的な結論は出せないことになっています。ある検査をするかしないか、同じような病期の人を100人集めてきて、サイコロで振り分けて50人はこの検査をする、50人はしない、それで経過観察をして、検査がどういうふうに役立ったかを見るわけですね。そういう試験をやらないと、本当のところはよく分からない訳ですが、なかなか今の時代そういう試験はできないので、こういうふうにやってみたらどうだった、という経験を積み重ねていくしかないだろうと思っています。実際のところ、治療後の経過を追うということについて医者はあまり熱心ではありません。というのは、早く分かった方が役立つわけではないからです。

再発というのは、普通は血液の流れやリンパの流れに入ってしまい、だいぶ離れたところにがんが出てくるという状況でして、1箇所見つかったら大体あちこち散らばっています。そういう状態では、基本的には抗がん剤でなんとかそれを抑え込んで時間を稼ぐ、という治療しかできません。そういう治療を早く始めても遅く始めても、効果はあまり変わらないんですね。早く見つけてなんとかした方が効果が高いのであればしつこくやってもいいんですが、そうじゃないので、程々に調べておいたらどうですか、というのが医者の側の考えです。

医師によっては厳重に経過観察をする人もいますが、一生懸命診てくれるという意味ではいいんでしょうが、あまり頻繁にいろんな検査をするのは精神的にも体にとっても経済的にもあまりよくないと思っています。それで、私自身は1、3、6、(9)カ月、1年、以降半年ごとにやっています。術後1カ月、3カ月は再発を診るというよりは、術後の状態が安定しているかどうかを診ています。6カ月くらいになると、このへんから出てくる方がいますので、そういう意味合いもあります。9カ月というのはTA期の方についてはやりません。がんが進んでいて、この方はひょっとすると早く出てくるかもしれないな、という場合は9カ月でもやります。1年何も出てこないとそこからは半年おきにします。1年出てこないんだから、再発して進んでいくにしてもゆっくりであろうということです。 どういう検査をやるかというと、胸のレントゲン写真、血液検査、それから問診、それだけです。CTや頭の検査、骨の検査とか、熱心にやっている施設もあるようですが、私は早く分かったほうが役立つわけではないという考えですので、こういう形でやってます。

腹部超音波もやっていますが、これは肝臓とか副腎とかに転移がおきることがままあるので診ています。実は最初の10年間、毎年やっていました。でも、ほとんど何にも見つかってないというのが今のところの経験です。それでここ数年、1、3、5年にしました。これが役立ったというのは、腹部大動脈瘤が見つかった人が3人ぐらいはいまして、それだけです。あと胆石が見つかった人もいますが、胆石は症状が無ければ放っておいてもいいので、もうどうしようかなと思っています。

TA期というのはほとんどの方が治りますし、3年経って再発がなければそれ以降は1年おきにしか診ておりません。

そうなってきますと、患者さんと顔を合わせる機会がだんだん減ってきました。入院期間自体も92年に開院したころは術後3週間くらいだったんですが、2、3年して大体2週間になりました。5年くらいから10日、2000年に入ってからはだいたい1週間しかいません。術前に看護師が患者さんと良好な関係を作るのに必要だというので3日ぐらい入院してもらいますが、10日ぐらいしか病棟にいらっしゃらないですし、私ももうろくしてまいりましたので、術後1カ月のときに、こういうお顔だったかなと思うことが最近ではあります。その後、半年おきとか1年おきになってきますので、当初の患者さんと、今拝見している患者さんとでは、だいぶ人間関係が違ってきたかなあ、と思うところはあります。

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