---第35号特集記事---


原発性肺がんと転移性肺がん
2004年6月 講演録 (3/4)


 国立がんセンター東病院呼吸器外科医
吉田 純司氏








◆再発の治療法
再発したらどうするか、そのときの状況によりますので単純にはいきません。1箇所だけ出てきたのなら切除してもいいだろう、というふうには考えています。脳とか副腎、肺に1個だけ出てきた場合は、切ると結構治るようだというデータもあります。ただ、こういう場合は少数派です。うまくいって4割ぐらいですね。やれば治るという治療ではないので、「1個しかないので、取って治るかもしれないけれど、治らない人の方が多いですよ」とはっきり申し上げています。けっこうチャレンジして頂くこともあります。

脳とか骨にきている場合には、放射線で落ち着く場合がありますので、そういう方向でいくこともあります。ただ大体の場合は、あちこちに出てくることが多いですね。単発に見える場合も、結局、検査で見えないものが多発していて治らない方が多いわけです。離れたどこかに転移が出てくるというのは、血流やリンパの流れに乗ってがん細胞が広がっていった結果ですから、1個しか出て来ないというのは普通は考えにくいわけです。

多発ということになりますと、切除や放射線では治りませんので、抗がん剤による治療になります。ただ、その時点では、抗がん剤でも「治す」というのはほとんど無理です。現実的には、特に非小細胞癌というのは、抗がん剤で治ったという方は、少なくともうちのデータとしてはいません。長生きしている方はいらっしゃいますが、これは癌は残っているけど進行が遅いので幸い長生きできた、という方だけです。残念ながら治癒は厳しいので、時間稼ぎということになりますが、本当に時間が稼げたのかとなると非常に厄介なところがあります。多発で再発した方でも、放っておいたのに5年生きた方も実際いらっしゃいますし、3年となると全然珍しくありません。ですから、「抗がん剤やって3年生きました」といっても、じゃあ放っておいたらそこまで生きなかったかというと誰も分からないんですね。

目の前にいる方に、「あなたはこの治療を受ければ、より長生きできますよ」という言い方はできないわけですから、こういうときは「一応平均としてはこうですよ」というお話をします。平均というのは、100人なら100人、だいたい同じような状態の患者さんを集めてきて、くじを引いて50人選び、その人たちには抗がん剤やり、残りの50人は治療しないで様子を見ます。それでどのぐらい生きたかという比較をするわけです。そうすると、だいたい差が出ます。平均値としては、3カ月前後違うんですね。でも、3カ月です。平均値というのは、その前後にバラつきがあって、抗がん剤をやったけど、やらないグループの平均値より短かった人も当然います。抗がん剤をやらなかったけど、やったグループの平均より長生きしましたという人も大勢います。なかには副作用で死ぬ人が1%ぐらいいますので、時間を稼ぐつもりでやったら、丸損で死んでしまったということも有り得ます。これが実態ですから、私はこれを全部お話しています。

時間稼ぎについてはよくわかりませんので、「奏効率」という言葉を持ち出します。「奏効率」というのは、がんの大きさが小さくなった患者さんの割合、ということです。CTなどでがんの固まりの断面の縦横のサイズを掛け合わせて、疑似的な面積を計算します。その面積が半分より小さくなって、それが4週間続いたら効いたということにする、と決めたわけです。面積が測りにくいケースもありますので、最近は一番長いところだけ測って比べよう、7割より小さくなったら奏功したことにしよう、となっています。面積で比較すると7×7=49で、大体約5割ですね。そうやって奏効率を出すんですが、これは3〜4割です。現実的にはそこまで小さくならない方の方が多い。6、7割がそうです。なかには、やっているのに大きくなる方も1割ほどいます。そういう方でも、やらなかったらもっと勢いよく大きくなるかもしれませんから、効かなかったらどうかと言われると困るんですけれど。

私は大体「1回やってみたらどうですか」と言います。1回やりますと、副作用がどういうふうに出るか、患者さん自身で具体的に分かりますので、続けられるかどうかがご自分の経験ではっきりしてきます。よく効く方は1回やっただけでかなり小さくなることもあります。「1回やってみて、ものすごく効いていれば多少きつくても頑張ったらどうです。1回やってみて、こんなの二度とやるもんかと思うんだったら、それはそれでしょうがないでしょう」と。そうしますと、だいたいの方は「1回やってみるか」とおっしゃいますね。個々の患者さんにとっての見通しというのは分からないので、そういう形でやるしかないだろうと私は思っています。
◆抗がん剤のリスク
そういうふうにやっていくと、だんだん抗がん剤の効かない細胞が選ばれていって、ある意味エリートみたいながん細胞が残るんですね。効かなくなってきたので別の薬を、といってもなかなか見つからない、ということがよく起きます。抗がん剤治療の場合、繰り返すほど効きにくくなるということを覚悟しないといけません。個人輸入などで新しい抗がん剤をいろいろ試すことに挑戦されている患者さんもいて、否定はしませんが、そういう方向にだけこだわっていると、最終的にきつい思いをしただけで丸損という可能性もありますので、ネガティブな面もよく考えてチャレンジした方がいいと思います。もちろん、チャレンジすることが無駄だとか、やってはいけないとかいうつもりは全然ありません。チャレンジすることに生きがいを見出せるんでしたら、それはそれでいいと思います。ただ、そのために「効かなかった」とか、「金を無駄に使った」とかいう繰り言は言わないようにしましょう、と思っております。

抗がん剤による治療にはなかなか当てにならないところがありますので、最終的には痛みとか苦痛を和らげる治療が主体になってきます。先ほどのようなお話をしますと、「最初からこっちだけにしてくれ」とおっしゃる方もいます。それはそれで、「副作用が非常に軽くて、効きがとても良い」という可能性を最初から切って捨てることになるので、それもどうかなと思うところもありますが、逆に1回試しにやってみたら死んでしまいました、という人もいるわけですから、まあそれはそれでいいんじゃないかと私は思います。
◆イレッサについて
イレッサに対するマスコミの対応はマッチポンプだと思いますね。「夢の新薬」とかいろいろ言っていましたね。今度は「悪魔の薬」で訴訟騒ぎになってる人もいます。基本的にはすべての治療にリスクはあるんだということはわかっておいてもらいたい。

一般的には新しい薬が出てきたら何が起こるかわからないと医者は思っていますから、ああいう事態が起きても全然不思議には思いませんでした。危険性がわかってきたら、そこでどういうふうに使ったらいいかをまた検討するしか実際のところないんですね。薬事行政が怪しからんとか、医者が使いすぎたとか、何か責めるところを探したがるのがマスメディアのようであります。

ネットですぐに検索できますが、河合医院の先生が非常にいい文章を書いていますので、ぜひお読みになることをお勧めします。

私は基本的にイレッサというのはいい薬だと思っています。副作用は、批判された間質性肺炎がありますが、これで命を落とす方が2%くらいというのが今のところの数字です。もうちょっと高いかもしれません。ですが、この薬が効かなければいずれ肺がんで死ぬという状況でチャレンジする薬ですから、それはもうしょうがないと思いますね。2〜3%死ぬかもしれないということが受け入れられないというのなら、それはそれでしょうがないと思いますが、これが素晴らしく効くかもしれないという可能性は捨てることになるので、それを承知してくださいと言わざるを得ませんね。

実際のところ手術でも亡くなる方はいますし、従来の抗がん剤でも間質性肺炎というのは起きていまして、放射線治療になりますと、1割近く間質性肺炎が起きます。ところがメディアはそういうことはまったく目をつぶっています。私はメディアとはあまり仲良くなれそうにありません。
◆転移性肺がん
さて、転移性肺がんの話に移りますが、実は「転移性肺がん」というのはあまりいい言い方ではありません。これですと、転移した肺がんなのか、肺に転移してきたよそのがんなのか、はっきり区別がつきません。ですから、「○○がんの肺転移」というのが一番はっきりした言い方であると、我々はレジデントに教育しております。

逆の言葉は「原発性」と言いまして、これはもともと肺にできたがんですね。原発巣が肺以外の臓器で、それが血流に乗って肺に運ばれてきて、そこで育ったというのが肺転移の状態です。こういう場合、血液の流れにがん細胞が入っているわけですから、他にも行っている可能性は十分あります。ですから、治療法を選ぶのは難しくなる。

転移というのは、もとのがんが運ばれてきてよそで育っただけですから、がん細胞の性質は転移先でも基本的には原発部位と同じです。ただ、運ばれていく間、血液中にそのがん細胞を攻撃するような免疫細胞がありますので、それに耐え、流れ着いた先でまた根を張って育たなくてはいけませんから、そういう能力が必要です。ですから全く同じかというと、これはまた難しい話になるんですが、一応もとのがんの性質を保っているということです。

転移にはいろんな形があります。1個だけ出てくることもありますし、2・3個パラパラと出てくる場合、細かいのが無数に出てくる場合もあります。あるいはリンパの流れが主体で転移した場合ですと、肺の中には細かいリンパ管が網目状にありますが、これが埋め尽くされるがん性リンパ管症という状態になる方もいらっしゃいます。あるいは、肺自体ではなくてリンパ節に転移してしまう方、がんが胸の中に散らばってその結果として胸の中に水が溜まる方もいて、こういうのを悪性胸水といいます。

あらゆるがんが肺に転移する可能性がありますが、外科的に多いのは大腸がん、あるいは骨肉腫ですね。検査法は、転移巣自体がどうなっているかを診るのに胸部X線やCT、元の場所で再発してないかとか、肺以外のところは大丈夫なのか、CTや脳のMRI検査、骨シンチ、最近PETをあわせるというのもありますが、そういう検査をして、転移巣の状態、あるいは原発巣の状態を検査していくわけです。
◆原発と転移の区別
そのがんが原発なのか、それとも転移なのかという区別ですが、これは難しいです。細胞に「私は胃がんです」と書いてあるわけではないので、とくに元々が肺がんで、また別にがんが肺にできたときは、これが原発なのか転移なのかは、取ってみてもわからないときが結構あります。似た形の細胞のがんが別々にできる可能性はもともとあるわけですから。そのへんで医者の説明が曖昧になることがあっても、それはちょっと勘弁していただきたい。

これまでがんに罹ったことがない場合は普通は原発ですが、転移が最初に見つかることもありますので、これも油断なりません。がんに罹ったことがあるとなると両方あり得るんですが、いずれにしても拝見している医者の解釈次第というところがあります。ですから、ある医者は「転移である」と言い、ある医者は「原発だ」と言う、ということはあり得るし、それはどっちが悪いということではありません。そのへんはよくよくご相談いただかないといけませんし、「いやぁ、実のところ困ってるんです」というときがありますので、そこらへんは勘弁してください。
◆肺転移の治療
肺転移が出てきたときの治療ですが、これは広がり具合によります。無数に出てきたとなるとこれはもう取りきれませんから化学療法になりますが、1個だけとか、少数の場合は切除も考えます。ただ、切除できるがんとしては、さきほどの大腸がん・骨肉腫が主です。それから頭頚部、口とかべろとか喉のがん。乳がん・肝臓がん・腎臓がん、こういうものを取ることもありますが、このへんについては取って治ることはどうも少ない。取れる段階で見つかることが少ないということなので、ちょっと難しいですね。

甲状腺がんとか胃がんになりますと、出てくるときは一気に出ることが多いものですから、なかなか取ってOKということはないです。取りきれないとなると抗がん剤治療になりますが、ほとんどの場合はやっぱり化学療法で治るというわけにはいきませんので時間稼ぎですね。逆に時間稼ぎくらいしかできないので、取れるものなら取ってみて治ってくれればめっけもの、というのがこっちの領域です。大腸がん・骨肉腫の場合は治る人がいちおう4割前後いるというデータがありますので、手術という話になっていますが、それでも半数以上は治らないわけですね。非常に厳しいです。それでもそこに一番チャンスがあるので、「手術をやったらどうですか」という提案はしますが、最終的には患者さんと相談してという感じになっています。

いずれにしても、手術にしても化学療法をやるにしても職人芸ですから、手馴れたところで治療を受けられるのがいいと思うんです。そういう治療を受けられた後は、元々の原発巣を治療した所で様子を見ていただくといいんじゃないかと思います。

あとは質問にお答えしたいと思います。


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