---第35・36号特集記事---


原発性肺がんと転移性肺がん
2004年6月 講演録 (4/4)


 国立がんセンター東病院呼吸器外科医
吉田 純司氏









◆イレッサについて
Q:具体例について教えてください。
続けている方もいるし、効かなくて止めた方もいます。一番長い方で2年ほどです。ある方は肝機能のGOT,GPTが上がってきたので毎日飲んでいたのを1日おきにし、だんだん減らして1週間に1回、それでも駄目で2週間に1回というようにして、たまにしか飲まないんだけど、病変は増えては来ない。そういうやり方で2年飲んだという方がいます。その方はその後病変が一つ増えて大きくなったので、飲む間隔を縮めて毎日飲むところまで行きました。肝機能は大丈夫だったんですが、1カ月ぐらい飲んでも効果が出ませんでしたので、今は新薬の治験にまわりました。

もう一人は手足の皮膚が荒れる方で、1日おきに1年ぐらい飲んだんですが、結局効かない病変が出てきて止めました。イレッサは1日1回1錠という飲み方が標準ということですが、まだまだ良く分からないですね。

まだまとまったデータは出ていませんが、いったん効かなくなったので止めて、他の抗がん剤を試してみてその抗がん剤が駄目で、またイレッサに戻したら今度は効いたという方もいます。今までの抗がん剤ですと効かなくなってきたらダメということが多かったんですが、イレッサはまた効くようになったとか、副作用も今度はあまり出ないというようなこともありますので、主治医とよく相談なさっていろいろ試してみたらどうかと思います。
Q:どのような効き方をする薬なのか、どのような副作用があるのか、グレープフルーツを食べてはいけないとわれたんですが、その辺、もう少し詳しく教えてください。
イレッサは分子標的薬として初めて臨床に使われるようになった薬で、上皮増殖因子受容体という細胞内の分子を阻害することでがんの増殖を押さえる、という方向で考え出された薬です。臨床試験に廻ってきて人で実際に使い始めたら、特に日本人でがんが消えてなくなったという人がけっこう出てきて、皆びっくりしたというのが本当のところだと思います。これからいろいろな分野の分子標的薬が出ると思いますが、たぶんますます仰天することが起きるだろうと思います。

グレープフルーツについては、イレッサを服用される方のためのパンフレットも出来ていますのでお読みいただくとして、今までに何万人かに使われましたので、はっきりしたデータがこれから他にも出てくると思います。わかってきたことの中には民族による違いがはっきりしてきたことがあります。まだまだ一般論としてどうかというわけにはいかないのです。
Q:イレッサについてNHKの番組で、ごく一部に死亡するような強い副作用があるが、他の化学療法に比べて副作用が少ないという説明があったのですが、ほかの化学療法薬とちがうんですか?
これまでも、抗がん剤というのは細胞が生きていく上での仕組みのある場所を押さえ込む、あるいは邪魔をするという意味では、分子を狙っていたのは一所なんです。ただ、今までの薬は正常細胞にもがん細胞にも共通する細胞の生きる仕組みを抑えるもので、がん細胞のように増えやすい細胞は正常細胞より押さえ込まれるという形で使われていたんです。分子標的薬がことさら違うように言われるのは、相手にしている分子ががん細胞に特徴的に見られるということで、別枠として捉えられているわけです。

がんに特徴的な分子があるとわかってきたのが1980年代で、それに対して作用する薬をデザインすればたぶん押さえ込めるだろうと。そのような分子をコンピューターで計算して、できるようになったのが1990年代で、やっとその薬が患者さんで実際に使われ始めたのが今という時代なんです。
 そういう薬ですから、がんに特徴的な分子を持たない正常細胞はやっつけないので、その分イレッサは一般的には副作用は軽いと言われている。でも、がんに特徴的といわれる分子の「的」が、実はがんだけにあるのではなくて、たとえば間質性肺炎のような致命的な副作用につながる所にも同じような的があるらしいのですね。でも、その辺はまだ良くわかっていません。それが分かればこういう人にイレッサを使うなということがはっきりしてくるでしょう。

薬の副作用はやってみないと分からないというのは、イレッサに限ったことではありません。サリドマイドも人間に使うまではあんなふうに手足に副作用が出るとは思わなかった訳で、あの教訓からやっと人間に持ち込む前に霊長類で実験しなければいけないという規則が出来たんです。残念ながら人間に使ってみたらどうなるかは使ってみないと分からない部分が残るので、分子レベル、遺伝子レベルで研究するようになってきて、将来的には使う前に分かるようになるかもしれませんが、まだまだ道は遠いです。
◆経過観察について
Q:肺がんの経過観察についてですが、そんなたくさんの検査をするのは不要で、一般的に6カ月とか1年とかそのくらいのテンポで検査すれば良いと言うお話だったと思うのですが。小さいがんの病巣ではレントゲンで捕らえられないこともありますよね。そんなレントゲン検査でいいのでしょうか?
CTの検査はいらないんですか?
いいか、といわれると私はそれでやっています。

CTもとらえどころが難しいところがあります。確かに小さい、淡い病変が見つかるんですが、術後では手術の影響のほうが大きくて、何か見つかっても大体は再発ではない。

「何か見つかりました」「じゃあ調べましょう」と言っても、かえって余計なことをしてしまうということも多いので、それはそれでまた問題がある。検査の負担とか、何か出てきたんではないかという心理的な負担、害になることもあります。ですからレントゲンで見つかるくらいの大きさのものを引っ掛ければ十分だということです。
Q:そうするとかなり大きくないと見つからないということですね
小さい病変をすべて見つけなければならない状況ではないということです。

現実的には手術の前に小さいものも見えるCTの画像を撮りますので、他に病巣がないという確認をした上で、手術に入るわけです。そういう状況から、新たに肺がんが出来るということは、普通は急速には起きません。

また、新たな肺がんを探すというよりも、再発が起きていないか調べるのが基本的な検査の目的です。欧米のがんセンターでは手術後の検査をあまりしません。だいたいは紹介医に返してしまって、後は悪くなったら来なさいということにします。そういう意味では日本の医者の方がよく面倒を見ているということが出来ます。
◆リンパ節転移について
Q:リンパ節というのは全身に網の目のようになっているのでしょうか。肺の場合はリンパ節のどのようなところへ転移するのでしょうか。
リンパ液が流れているリンパ管が全身に広がっています。その要所要所にあって流れをこしとっているのがリンパ節です。だいたいどこの臓器にがんがあるとどういうところに転移しやすいかというのは、経験的、解剖学的に判っています。肺がんの場合はだいたい空気の通り道の周りに出やすいです。どんどん広がりますと、最終的には首の付け根とかおなかの中にも来ますけど、こういう状態は治らない段階の肺がんなので、手術しましょうというのは胸の中に留まっているときです。
Q:肺の中ですか?
肺の中にもリンパ節はありますが、のどから一本下りてきている気管、そこから二つに枝分かれしたその周り、肺の外ですがそこにもあります。
Q:肺がんは遠隔転移の方が病気の段階は重いのですか?
病気の段階としては遠隔転移が一番高く、重く評価されてます。それはTMNのMが0か1か。遠隔転移があるなしで、ありの場合は全部第W期に収められています。リンパ節の場合はずっと離れたリンパ節の場合は遠隔転移として捉えられますが、その手前のリンパ節は第1,2,3群として分かれて、できたがんの近くから順繰りになっていて、1が一番近いです。がんの出来た肺の中のリンパ節は1です。胸の中だけど両方の肺に挟まれた縦隔という場所だと第2群になります。それより離れたリンパ節になると第3群で、首の付け根とか、反対側の肺の中などがあります。これより離れたリンパ節は遠隔転移で、M1と評価します。離れたリンパ節に広がっているほど状態は悪いのですが、第3群に行っても病気の段階としてはIIIB止まりです。こういう分類は5年生存率に基づいてなされています。
◆検診はいつ、どれくらいの期間で受けたらいいのか
Q:早く肺がんを見つけるためには、実際にやっている検診の検査と、痰の検査だけやっていればいいのでしょうか。もう一つはラドン温泉というのがありますが、入っていて大丈夫なんでしょうか。
検診ですが、実際のところ、どういうときにどんな検診をしたら良いか結論は出ていません。

こういうのは学問としてはっきりした結論を出すとなると、何にもやらなかった人と、レントゲンだけ撮った人と、CTも撮った人と全部を比べて、何年も追ってみないと分からないんです。実際上は何もしない人という分類に入っていたとしても、たとえば風邪をひいて長いこと具合が悪いということになればレントゲンを撮って、そのときたまたまがんが見つかるというのはしばしば起きることです。そうするとグループ分けしていたのに、何を相手にやっていたのかわからなくなってします。しかも肺がんの発生率は10万に対して何十人というレベルですから、こういう問題に対してしっかりした結論を出すということになると、何万人も調べないとものごとが分かりません。

日本もレントゲンやCTをどんどん撮りますが、学問的な結論を申し上げようとすると、非常に苦しい。では現実的にどうなのかというと、我々のところで手術を受けて治る患者さんというのは、検診で見つかって症状もないままとか、たまたま咳が続くのでレントゲンを撮ったらなにかある、それでCT撮ったら肺がんだったとか、症状がないうちにたまたまなにかで見つかったという方がほとんどです。ですから、個々人の問題がどうだという話になると、肺がんで死にたくなかったら検診を受けてくださいと申し上げるしかないだろうと思います。

どのくらいの期間ごとに検診を受けたらいいかというと、それはまたまた厄介な話で、本当に結論を出そうとすると、1年ごとに受けた方と、2〜3年ごとに受けた方とグループを作ってやらないといけないので、全体をコントロールできないですよね。科学としてそういう問題に結論を出すというのはとてもやっかいなことです。日本では住民検診でのデータがいっぱいあります。学問の方法論レベルとして比べると落ちると言われますが、高度な方法論でクリアな結論が出せるかというとこれまた難しいので、本当のところじゃあ頼りになる結論はどこにあるかというと、やっぱり難しい。

日本では検診が役に立つというデータがとりあえずあるので、私はやっていいのではないかと思っています。どのくらいの期間ごとがいいかという話に戻りますが、ここは科学的に学問的にどうだという結論は出せませんが、実際には1年ごとに受けていた患者さんが、後手に廻ってしまうということが出てくることがあります。逸見さんがそうでしたよね。毎年胃カメラやっていたのに、手遅れの胃がんが見つかって、死んでしまった。じゃあ半年ごとにやればいいのかというと、それは確かにそういう患者さんもいますが、そんなに多くはない。むしろ珍しいです。まあ1年に1回くらい受けていればそう後手に廻ることは少ない。大腸のがんというのは非常に進行が遅いのが一般的なので、2〜3年おきに受けていればいいのでは、と言われていたのが、最近は5年おきに見ていればいいと言われるようになってます。肺の場合どうかというと、タバコ吸いの方は年に一度やったほうが良いでしょう。小細胞がんが結構出ますが、この病気は1年でも後手に廻る可能性があります。早いうちに見つければ比較的治りやすいかと思いますが、小細胞がんで手術で治っている方は限られています。でもだいたいこういう話は1年に1回くらいかなと思っています。それで後手に廻ったらどうしてくれるといわれると、どうすることも出来ないので、しょうがないという話になっちゃうんですが。

ラドンの問題は、少量の放射線がどのくらいの悪さをするか良く分かっていません。大量の放射線が当たるといろいろながんができやすいということは、広島・長崎の原爆から分かっているんですが、あれは一度にドカンと浴びたわけです。生命は少量の宇宙線を浴びて何十億年やってきたわけで、少量の放射線はかえって健康にいいんだと言う学者さえいます。これは実際のデータがありまして、台湾でマンションを建てる際にコンクリートの材料に放射性物質が混ざっちゃって、そこの住民は放射線を通常より多く浴び続けてしまったんですね。それで健康調査をずっとしていましたら、一般の住民より健康状態が良く、がんも少なかったというデータがあります。かなり仰天しますが、あり得ないのかというと、生命は放射線を少しずつ浴びながら進化してきたわけだから、もしかするとそういうこともありかもしれない。

じゃあラドン温泉がどうかというと良く分かりません。ラドンはすごく濃いと確かにがんは増えると実験的に出ています。ラドンが少ないとどうかというと台湾と同じで、ラドンによる放射線の量が他の地域より少し濃い場所でがん患者が少ないというデータはあります。だからといって明日から放射線を少しずつ浴びようかと考えるのは危ないと思います。

◆検診の限界
Q:検診の結果ですが、「毎年検診を受けていたのに見つからなかった」という声を聞きますが、読影の段階で見落としが多いのではないかと感じているんですが。
普通のレントゲンで検診をしているとなりますと、「どうして前に見つからなかったの」といわれると非常に苦しいものがあります。胸のレントゲンというのは非常に厚みのある胸を一枚のフィルムに写しますので、いろいろと重なって写ります。心臓から肺に太い血管が出ているんですが、それがどんどん枝分かれして細かい毛細血管になっていって、それが肺全体を満たしていますので、全体としてモヤっと写ります。ですから病変がモヤっとしてますとなかなか見えないです。さらに骨がいっぱい重なってるわけですね。真ん中に背骨がありまして、背骨から肋骨がずっと出ています。一番上には鎖骨といって肩のところに触れる骨があります。あばら骨がずっと廻っていてこの辺は妨げるものが多くてよく見えません。

「胸に影があります」と紹介されてきた患者さんをまた私共でもう一度撮りますと、「どこにあるの?」ということはしょっちゅうです。逆に「ここに写っている」という目でみると「あ、これが3年で育ったんだ」と分かってしまう影が見えることもよくあります。検診をやっている先生方の心労というか、ご苦労というのは大変だろうなと思います。ここにあるという目でみれば、3年前の写真と一緒に並べられると、素人目にも分かりますが、3年前の時点でこの病変はおかしいと見抜けというのは過酷だと思います。それは限界です。

CTだともう少し分かると思いますが、ではCTでいつもすればいいじゃないかということになりますが、それはそれで、かえって必要のないものまで見えてしまうとか、コストのこと、人員のことだとかで、はたして推進していっていいものかどうか医者も困っているのが現実だと思います。


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